悩み 48

元彼が忘れられないのは、なぜか

何年も引きずるのは、あの恋が特別だったから。その説明は、研究が測ってきた変数とずれている。

結論から言うと

別れると「自分が誰か」の輪郭がぼやけ、ぼやけているほど苦痛が強い。引きずりやすさと関係していたのは相手の特別さではなく、その関係が自分の中で占めていた場所の大きさ。回復を説明していたのは時間そのものより、自分の輪郭が戻ることだった。

恋愛工学の答え

「次を作れば上書きされる。忘れられないのは次がいないから。」

上書きによる回復を前提にした運用です。相手の記憶を消す方向で考えます。

研究の答え

忘れられなさは自己概念の明確さの低下として測られ、回復はその回復として測られている。

付き合っているあいだ、人は相手と友人や習慣を共有し、自分の中身が相手と重なっていきます。だから関係が終わると、自分の一部が抜けます。

3つの研究で、別れたあとに自己概念の中身が変わり、「自分が誰か」の明確さが下がること、そして明確さが下がっているほど苦痛が強いことが、他の要因とは別に示されました。

別れて半年以内の155名では、別れのあとの成長と前向きな感情は、その関係が自分をどれだけ広げていたかと関係していました。広げる度合いが低かった関係ほど、自分を取り戻す感覚が強く、自分を失った感覚が少なかった。引きずりやすさと関係していたのは、相手の特別さではなく、関係が自分の中で占めていた場所の大きさです。

210名を9週間追った研究では、別れについて繰り返し語る測定を受けた群で自己概念の乱れが大きく減り、その改善が、記憶の侵入・孤独感・「私たち」という語の減少を説明していました。介入は相手を忘れる訓練でも新しい恋でもありません。

逆向きの関連もあります。元の相手との接触は愛情と悲しみの減りを遅らせ、SNSの閲覧は苦痛と渇望の強さと関連していました。

出典:自己概念の明確さ Slotter, Gardner & Finkel (2010) PSPB 36(2)/関係が自分を広げていた度合い Lewandowski & Bizzoco (2007) J Positive Psychology 2(1)/繰り返し語ることと回復 Larson & Sbarra (2015) SPPS 6(4)/接触 Sbarra, D. A., & Emery (2005) Personal Relationships 12(2)/SNS閲覧 Marshall, T. C. (2012)/期間の見積もり Gilbert, Pinel, Wilson, Blumberg & Wheatley (1998) JPSP 75(3)

研究の中身

Slotter, E. B., Gardner, W. L., & Finkel, E. J. (2010). Who am I without you? The influence of romantic breakup on the self-concept. Personality and Social Psychology Bulletin, 36(2), 147–160.
何をしたか
別れたあとに自己概念の中身がどう変わるか(研究1a・1b)と、自己概念の明確さがどう下がるか(研究1〜3)を、方法の異なる3つの研究で調べ、苦痛との関連を見た。
何が分かったか
別れたあと、自己概念の中身が変わり、明確さが下がっていた。明確さの低下は、他の要因とは別に別れの苦痛を予測した。
どのくらいの強さか
3研究で同じ向き。その後、210名を9週間追った割付比較(Larson & Sbarra 2015)で、明確さの回復が感情の回復を説明することが示された。

議論されている点

横断的な研究が中心で、苦痛が輪郭をぼやけさせる向きも排除されていません。

割付のある研究でも、効果は自己概念の指標を通したものに限られ、他の指標には群の差がありませんでした。

これは「相手は特別ではなかった」と言う研究ではありません。特別だったという感覚が、回復を説明する変数として測られていない、という話です。

使っている理論

  • 自己拡張モデル(社会心理学 / 動機づけと親密性)— 人は自己を拡張する(できることや視野を広げる)動機を持ち、親密な関係はその主要な手段になる。
  • 自己への他者の取り込み(社会心理学 / 親密性の測定)— 相手を自分の一部として取り込んでいる度合いが、親密さをよく捉える。
  • インパクト・バイアス(社会心理学 / 感情予測研究)— 悪い出来事のあと、自分がどれくらいの期間つらいままかを、人は実際より長く見積もる。

参照している研究

恋愛の俗説を、心理学の原典まで遡って確かめています。
根拠の強さを書けない主張は、このサイトでは扱いません。