悩み 44

ここまで来たから、別れられないのか

かけた時間が惜しい。この感覚には名前がついています。

結論から言うと

戻らない費用は判断に入れるべきでないのに、人は実際には入れてしまう。これがサンクコスト効果です。ただし恋愛でこの形が働くことを直接検証した研究は少なく、関係の側は投資モデルが扱っています。

恋愛工学の答え

「損切りしろ。合わない相手は早く切れ。」

見極めと回転を重んじる運用です。判断の速さを価値に置いています。

研究の答え

戻らない投資の大きさが、続けるかどうかの判断に入り込む。

合理的な判断では、すでに払って戻らないものは、この先どうするかの材料にしてはいけないとされます。過去は変えられないからです。

ところが実験では、戻らない費用を多く払った人ほど、割に合わなくなっても続けることを選びました。払った額そのものが判断材料になっていたわけです。

恋愛では「ここまで来たから」「何年もかけたのに」という形で現れます。ただし注意が要ります。この効果が検証されてきたのは投資や購入の判断であって、関係を続けるかどうかの判断ではありません。

関係の側を扱っているのは投資モデルです。そちらでは、投資量の多さがコミットメントを高めることが繰り返し確認されています。つまり「かけたものが判断を変える」こと自体は関係研究でも見つかっています。ただしそれが誤りなのかどうかは、また別の話です。

出典:Arkes & Blumer (1985)/Rusbult (1980) の投資モデル

研究の中身

Arkes, H. R., & Blumer, C. (1985). The psychology of sunk cost. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124–140.
何をしたか
すでに払って戻らない費用が、その後の判断をどう変えるかを、10の実験で場面を変えて調べた。
何が分かったか
戻らない費用を多く払った人ほど、割に合わなくなっても続けることを選んだ。払った額そのものが判断材料になっていた。
どのくらいの強さか
投資・購入の判断を扱った実験群。関係の継続を扱ったものではない。

議論されている点

恋愛でこの形が働くことを直接検証した研究は多くありません。関係の側を扱っているのは投資モデルで、そちらでは投資量の多さがコミットメントを高めることが繰り返し確認されています。

ただし「かけたものが判断を変える」ことと「それが誤りである」ことは別です。積み上げたものに実際の価値がある場合、それを考慮するのは不合理ではありません。サンクコストという言葉を、関係を切る判断の正当化に使うのは、この知見の範囲を超えています。

使っている理論

  • サンクコスト効果(行動経済学 / 意思決定研究)— すでに払って戻らないものの大きさが、この先どうするかの判断に入り込んでしまう効果。
  • 投資モデル(社会心理学 / 相互依存理論の系譜)— 関係を続ける力(コミットメント)は、満足度 + 投資量 − 代替の質 で決まる。コミットメントが高い人は、他の選択肢を無意識に低く評価する(代替の切り下げ)。
恋愛の俗説を、心理学の原典まで遡って確かめています。
根拠の強さを書けない主張は、このサイトでは扱いません。