悩み 04
恋人がいるのに、他の人が気になる
恋人がいるのに、他の人が気になってしまう。自分は薄情なのか。
結論から言うと
薄情かどうかの話ではない。他が魅力的に見えるのは、ふだん働いているブレーキが弱まったサイン。満足度か、注いできた時間か、どちらかが減っている。
恋愛工学の答え
「恋人がいる相手も落とせる。市場は常に開いている。」
パートナーの有無を障壁とみなさない立場です。関係を他の選択肢可能なものとして扱う前提が置かれています。
研究の答え
「他が気になる」は、コミットメントの構成要素が動いたシグナルとして説明できる。
Rusbult の投資モデルでは、コミットメントは3つで決まります。
コミットメント = 満足度 + 投資量 − 他の選択肢の良さ
ここが肝心です。関係を続ける気持ちが強い人は、他の相手を気づかないうちに低く評価します。いわばブレーキです。つまり「他の人が魅力的に見える」こと自体が、この防衛機構が弱まっているサイン。
だから責める材料ではなく、満足度か投資のどちらが下がったかを見る診断材料として使えます。
出典:Rusbult (1980) JESP 16(2)/メタ分析 Le & Agnew (2003) Personal Relationships 10(1)/代替の切り下げ Johnson & Rusbult (1989) JPSP 57(6)
研究の中身
Le, B., & Agnew, C. R. (2003). Commitment and its theorized determinants: A meta-analysis of the Investment Model. Personal Relationships, 10(1), 37–57.
何をしたか
投資モデルを検証した52の研究(60の独立した標本、参加者 11,582名)を統合し、満足度・投資量・代替の質のそれぞれがコミットメントとどのくらい結びつくかを推定した。
何が分かったか
3つの変数はいずれもコミットメントと有意に関連し、合わせてコミットメントの分散のおよそ3分の2を説明した。もっとも強く効いていたのは満足度。
どのくらいの強さか
恋愛以外(仕事へのコミットメントなど)にも当てはまるが、恋愛関係のほうが当てはまりは強い。民族や交際期間による違いは小さかった。
攻略 男性が読む場合
相手の内側で起きていること
恋人がいる相手が揺れているとき、起きているのは「代替の切り下げ」の弱まり。コミットメントが高い人は他の選択肢を無意識に低く評価するので、あなたが魅力的に見えているのは、相手の関係側で満足度か投資が下がったサインでもある。
どう活かすか
つまり成否を決めているのはあなたの能力ではなく、相手の関係の状態。ここを取り違えると再現性のない成功体験になる。自分の関係に当てはめるなら、満足度と投資を積む側に投じるほうが確実。
使える場面
相手に恋人がいると分かったとき。相手が愚痴を言い始めたとき。自分のパートナーが他の人の話をよくするようになったとき。
女性が読む場合
相手の内側で起きていること
他の人が気になり始めたとき、それは薄情さではなく、満足度か投資量が下がったシグナルとして読める。コミットメントが高いあいだは、他の選択肢は自動的に低く見えている。その機構が弱まったから見えてきた。
どう活かすか
責める材料ではなく診断材料にする。満足度が下がったのか、投資が積み上がっていないのか、単に新しい人に会っただけなのか。どれかで打つ手がまったく違う。我慢で代替を抑えても、上の二つは何も変わらない。
使える場面
恋人がいるのに他の人が気になるとき。相手への気持ちが薄れたと感じたとき。長く続いた関係で感情が動かなくなったとき。
この機構自体に性差はほとんど報告されていません。違うのは置かれる状況と、社会的な台本のほうです。
「どう活かすか」「使える場面」はモデルから導かれる読み方であって、その手順の効果を検証した研究があるわけではありません。
議論されている点 このモデルは「今どういう状態か」をよく説明します。ただし、満足度が下がった原因が何かまでは教えてくれません。診断の枠であって、処方箋ではない。
また相関研究が中心なので、「代替が魅力的に見えるからコミットメントが下がる」のか「コミットメントが下がったから代替が魅力的に見える」のか、方向の断定には慎重であるべきです。本文では後者の読みを採っていますが、これはモデルの構造からの推論です。
使っている理論 投資モデル (社会心理学 / 相互依存理論の系譜)— 関係を続ける力(コミットメント)は、満足度 + 投資量 − 代替の質 で決まる。コミットメントが高い人は、他の選択肢を無意識に低く評価する(代替の切り下げ)。
コミットメントは三つの変数で決まる 見落とされている働き 責める材料ではなく、診断材料として
この悩みのサイン(6件) 「他が気になる」は責める材料ではない。満足度と、注いできた時間。どちらが減ったのかを見るための材料として使える。
他の人が魅力的に見えるようになった 研究あり よく言われる読み方
「気持ちが冷めた。裏切りの前触れ。」
同じくらい起こりうる説明
満足度が下がった 投資量が下がった 普段働いている「代替の切り下げ」が弱まっている どう切り分けるか
満足と投資のどちらが動いたかを分けて振り返る。切り下げが弱まるのは結果であって原因ではない。
根拠の出どころ
Rusbult の投資モデル。関係を続ける気持ちが強い人は、他の相手を自動的に低く評価する。このブレーキが弱まると他が魅力的に見えはじめる。
会話が業務連絡だけになった 研究あり よく言われる読み方
「終わりが近い。」
同じくらい起こりうる説明
生活の負荷が高い時期 新しい体験の共有が減っている 実際に関心が落ちている どう切り分けるか
共同で新しいことをする機会を一度作って、会話が戻るかを見る。
根拠の出どころ
二人で目新しいことをすると関係の評価が上がる、という実験結果がある。マンネリは飽きというより、新しい入力が止まった状態。
相手の欠点が急に目につく 研究あり よく言われる読み方
「本性が見えてきた。」
同じくらい起こりうる説明
美化が薄れた 満足度が下がった結果として注意が向いた 実際に相手の行動が変わった どう切り分けるか
同じ欠点が以前からあったかを確認する。あったなら、変わったのは相手ではなく見方のほう。
根拠の出どころ
相手を実際より良く見ていること自体が、関係の満足と結びついている。その色が薄れること自体が、状態を示す材料になる。
一緒にいても別々のことをしている時間が増えた 根拠なし よく言われる読み方
「冷めている。」
同じくらい起こりうる説明
どう切り分けるか
同席の量ではなく、応答の質を見る。呼びかけへの反応が返るなら、量は指標にならない。
根拠の出どころ
一緒にいた時間の長さと関係の満足を結びつけた、強い証拠はない。
喧嘩が減った 研究あり よく言われる読み方
「関係が良くなった。」
同じくらい起こりうる説明
どう切り分けるか
意見が違ったときに口に出るかを見る。出ないなら、減ったのは対立ではなく表明のほう。
根拠の出どころ
話し合いから降りること自体が、その後の関係と結びつく型のひとつとして観察されている。
相手が自分の話をしなくなった 理論からの推論 よく言われる読み方
「隠し事がある。」
同じくらい起こりうる説明
話しても返ってこない経験が重なった 話す内容が減っている 実際に共有したくないことがある どう切り分けるか
こちらの反応の型(前の章)を先に点検する。受動的・破壊的な返しが続くと、開示は減る。
根拠の出どころ
返し方が開示の量を減らす、という筋は通る。ただしその因果を直接測った研究は確認できていない。
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note の記事
恋人がいるのに、他の人が気になる
この話は、図解つきの読み物としても書いています。研究の中身を1本ずつ図にした版です。
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参照している研究 Rusbult, C. E. (1980). Commitment and satisfaction in romantic associations: A test of the investment model. Journal of Experimental Social Psychology, 16(2), 172–186. Johnson, D. J., & Rusbult, C. E. (1989). Resisting temptation: Devaluation of alternative partners as a means of maintaining commitment in close relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 57(6), 967–980. Le, B., & Agnew, C. R. (2003). Commitment and its theorized determinants: A meta-analysis of the Investment Model. Personal Relationships, 10(1), 37–57. Thibaut, J. W., & Kelley, H. H. (1959). The Social Psychology of Groups. Wiley.