悩み 26

相手を美化するのは危険か

「現実を見ろ」とよく言われる。相手を美化するのは危険なのか。

結論から言うと

危険どころか逆だった。相手を本人の自己評価より良く見ている人のほうが、関係に満足していた。しかも見られた側の自信も上がっていた。

恋愛工学の答え

「冷静に相手を評価しろ。惚れた欲目は判断を誤らせる。」

評価の正確さを重視する立場です。

研究の答え

パートナーを本人の自己評価より良く見ている人のほうが、関係に満足していた。しかも理想化された側の自己評価も上がっていた。

相手を実際より良く見ている度合いと、関係の満足度。その関連を、同じカップルを追いかけて調べた研究があります。

結果は直感に反します。**理想化している人のほうが関係に満足していて、しかも理想化された側の自己評価まで上がっていた。**「惚れた欲目」は、少なくとも短中期には機能していた。

ただし上限があると考えられます。現実との乖離が大きすぎる場合の効果は別に検討されていて、この研究がそこまで保証しているわけではありません。

出典:Murray, S. L., Holmes, J. G., & Griffin, D. W. (1996), JPSP, 70(1), 79–98

研究の中身

Murray, S. L., Holmes, J. G., & Griffin, D. W. (1996). The benefits of positive illusions: Idealization and the construction of satisfaction in close relationships. JPSP, 70(1), 79–98.
何をしたか
パートナーを本人の自己評価より良く見ている度合い(理想化)を測り、関係の満足度および相手の自己評価との関連を縦断的に調べた。
何が分かったか
理想化している人のほうが関係に満足していた。さらに理想化された側の自己評価も上がっていた。
どのくらいの強さか
縦断デザインで、時間的な前後関係がある程度追える。

攻略

男性が読む場合

相手の内側で起きていること
相手があなたを実際より良く見ているとき、それは判断の誤りではなく関係を機能させる働きをしている。しかも理想化された側の自己評価も上がる。
どう活かすか
相手の期待に応えようとする負荷を、悪いものとして扱いすぎない。ただし「良く見る」と「問題を見ないふりをする」は別。区別できない相手なら、そこは警戒材料。
使える場面
相手に買いかぶられていると感じたとき。期待が重いとき。

女性が読む場合

相手の内側で起きていること
相手を美化してしまう自分を、冷静さの欠如として責める必要はない。理想化している側のほうが満足度は高かった。
どう活かすか
ただし乖離が大きすぎる場合の効果は保証されていない。問題を見ないことと良く見ることを、自分の中で分けておく。
使える場面
「惚れた欲目では」と言われたとき。相手の欠点が見えないと不安になったとき。
この機構自体に性差はほとんど報告されていません。違うのは置かれる状況と、社会的な台本のほうです。
「どう活かすか」「使える場面」はモデルから導かれる読み方であって、その手順の効果を検証した研究があるわけではありません。

議論されている点

理想化の効果には上限があると考えられます。現実との乖離が大きすぎる場合にどうなるかを、この研究は保証していません。

また「良く見る」ことと「問題を見ないふりをする」ことは別です。区別せずに読むと、危険な関係を維持する理由づけになりかねません。

使っている理論

  • ポジティブ幻想(社会心理学 / 関係維持)— パートナーを本人の自己評価より良く見ている度合いが、関係の満足度と結びつく。
  • リスク調整モデル(社会心理学 / 対人関係研究(relationship science))— 人は誰かに近づくとき、「つながりたい」という接近の目標と「拒絶されて傷つきたくない」という自己防衛の目標を同時に走らせている。どちらが勝つかを決めるのは、「相手が自分をどう見ているか」の推定。ここが低く見積もられていると、認知・感情・行動の3つのif-thenルールがすべて防衛側に倒れる。
恋愛の俗説を、心理学の原典まで遡って確かめています。
根拠の強さを書けない主張は、このサイトでは扱いません。